ローレリアれんぽうぜんしよう基地は、はちをつついたようなさわぎになっていた。

 先ほど、全小隊に向けて本来は予定にないしゆつげき命令が下されたのだ。しかも、フィリアの部隊はいわくつきの地下こうりやく作戦に割り当てられたため、装備のえがありあわただしかった。

 フィリアが輸送ヘリに乗り込むと、他の隊員が我先にとその周囲の座席へと飛びついた。

 そうしてひろげられるのはろうどもの静かなるけつとう

 その中心で、フィリアは収納状態になったドローンの〈イヴ〉をいたまま身をすくめる。

「おい、馬鹿ろうそこをどけ。中佐のとなりには副隊長の俺が座るべきだ」

「あんたは別部隊の副隊長でしょう! 何でここにいるんですか! 真の副隊長たる僕こそが相応ふさわしいです」

「いやいや、たまには中佐の補給担当の俺が」

「みんな落ち着きたまえ。ここは間を取ってロードレイン同好会会長のこの私が」

 やれ俺の場所だ、お前はどけ、だなどと純白のタクティカルスーツに身を包んだ男たちが押し合いへし合いしている。

 すると、フィリアからは何も指示を出していないにも関わらず、〈イヴ〉がするりとフィリアのうでからけるなり、男たちの身体を押しのけていく。

「うわっ!」

「ちょ、なんだ、ドローンが勝手に……!」

 そんな彼らの背後にくろかみの少女が現れ、ろうどもの頭をはたいていった。

「ちょっとあんたら少しは自重しなよ! しゆつげきまえに何ハシャいでんの! 〈イヴ〉もおこってるじゃん!」

「システィねえさん、痛いっすよ……」

だれねえさんだだれが」

〈イヴ〉とシスティによるきようげきらった男たちは、すごすごと対面のシートに座っていく。

「はあ……。まったくどうしてこの部隊はいつもいつも……。しゆつげきの目的がせんとうじゃなくてフィリアのかんしようになってんじゃないの?」

 フィリアのとなりこしを下ろしたシスティは深くたんそくして、周りの男たちをへいげいした。そのするどい眼光に照らされた隊員たちはへびにらまれたかえるのように姿勢を正してこうちよくする。

 しかし、そのうちの一人──フィリアの隊の副隊長──が負けじと話題をってきた。

「中佐、今日は閉所戦ということで、キルタイムがかなり加速しそうですね!」

「そ、そうね」

「今日も気合い入れてエルマーのぶたろうどもを大量に殺しましょうね! それで先の大戦でやつらにうばわれた嶺京を取り返してやりましょう! 僕たちが全力でサポートしますので!」

「あり、がとう──」

 フィリアはこの時、自分の顔が固まるのが分かった。

 以前なら気にも留めずに流していたであろう言葉。

 がおで殺意を語る副隊長の顔を見て、かんを得た自分におどろいた。

 ──どうして?

 フィリアは自分の心にまどいを覚える。

 敵兵を殺せば評点が入る。その評点が高ければ高いほど、仲間からの評価も上がりエリートとしてのメンを保てる。たったそれだけの構図なのに、当たり前のことなのに、なぜ気持ち悪さを覚える?

 不意に、フィリアは昨日のせんとうさいに《血も無き兵ブラツドノート》がかべたかなしい笑みを思い出した。

「……っ」

 引き金をしぼったら、いとも簡単に彼は血を吹いて死んだ。フィリアにじゆうこうを向けられてもなお、かべた笑みとともに。

 ゆっくり消えていく黒いひとみを見た。

 ひっきりなしに上下していたかたの動きが止まるのを見た。

 そんな彼の身体のうちフィリアの穿うがった穴からとめどなく赤い血が流れるのを見た。

 ──わたしは、死を見たんだ。

 だからどうということもない。この世界では身体の死は、はや、死そのものではないのだ。

 そのはずなのに。

「……何なの、この気持ち」

 胸の内に重油がべっとりこびりついたような不快感は、何なのだろうか。

「フィリア、次のしゆつげき、私たちの番!」

 かたさぶられて我に返る。

 首を回すと、目と鼻の先にシスティの顔があった。

 彼女が指さすのは窓の外。そこではとなりの部隊を乗せた輸送ヘリが今まさに飛び立つところだった。

 フィリアははっとして、自分の仕事を思い出す。

『アッシュ1より統合本部アジテーター。アッシュ隊、しゆつげき準備完了』

『本部りようかい

 女性の合成音声が脳内にひびくなり、輸送機のハッチがまり、ローターの回転数がぐんぐん増していく。

「フィーリア」

 すると、右のほおをシスティにつままれた。

「にゃにふんのよ」

きんちようしてるからやわらげてあげようかと」

 フィリアは首を左右にぶんぶんってシスティの手をほどく。

 代わりに彼女の鼻をきゅっとつまんだ。

「んく……っ」

「別にきんちようなんかしてない」

 フィリアの手からのがれたシスティはむーとくちびるとがらせる。

「そう?」

「……少し、ゆううつなだけ」

「?」

 フィリアはそう言うと、頭上にもんかべて首をひねったシスティから目をらした。

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