第一章 いいから俺を採用しろ

1.勇者、採用面接を受ける

 コン、コン、コン、コン。

 丁寧にノックを四回。『どうぞ』という声を待ってから、赤く分厚いてっに手をかける。

 ……内定を取るぞ。内定を取る。絶対に内定を取ってみせる。

 俺にはもう、ここしか行き場がないのだ!

 気合いを入れて前を向き、ぐいと扉を押す。面接室の……王の間のひんやりとした空気が俺の頰をでた。

 ここを訪れるのは何ヶ月ぶりだろうか。かつてはそうごんな雰囲気すら漂っていた王の間は、ひどく殺風景な空間になっていた。

 ビリビリに破けた赤いじゅうたん。完膚なきまでに粉砕されたフルプレートアーマーの残骸。床や壁をはじめ、あちこちに魔王と勇者の戦闘によって刻まれた破壊跡が残っており、それらは特に修繕される様子もなく完全に放置されている。

 そんな王の間のしんおうで待ち受けるのは、玉座に悠然と腰掛けた真紅のドレスの少女。

 魔界の覇者、爆炎の女帝──魔王エキドナ。

 彼女の両脇を固めるのは四人の側近。エキドナ直属の四天王達だ。

 全員の視線が俺に集中した。

 俺は彼らに深く一礼すると、《正体隠蔽ゴーストフェイス》の呪文をかけておいたローブを脱ぎ捨て、素顔をさらす。エキドナがきょうがくの表情を浮かべ、玉座から腰を浮かせるのが見えた。

 驚くのは無理もないことだ。なにせ、彼女と俺はつい三ヶ月前まで血みどろの殺し合いをしていたのだから。

 るか殺られるかの真剣一本勝負──勝ったのは勇者。つまり、俺だ。一言では言い表せない複雑なおもいが、俺とエキドナの間に渦巻いている。

 だが、過去のことは忘れよう。戦争は終わった。今は未来を見据える時だ。

 人と魔族で手と手を取り合い、希望に満ちた明日へと踏み出す時だ。

 エキドナだって馬鹿じゃない。今の魔王軍が深刻な人手不足に陥っているのは彼女が一番わかっているはずだ。たとえ相手が誰だろうと──そう、たとえ憎き勇者が相手でも、とりあえず話くらいは聞いてくれるはずだ。

 俺はいかにも急ごしらえな木製テーブルに履歴書を置き、道すがら熟読した『必勝! 就職面接マニュアル』に書いてあった通りに自己アピールを行った。

 言葉はできるだけはっきりと。経歴は包み隠さず。

 胸を張って堂々と、自分に出来ることを伝える。

「元勇者、レオ・デモンハート! 特技は剣術、黒魔術、精霊魔術、神聖魔術、その他全般! 一対一で魔王エキドナを打ち倒した実績あり。即戦力として活躍可能!」

『打ち倒した実績あり』のあたりでエキドナの額に青筋が立った気がしたが、まあ気のせいだろう。事実は事実として伝えましょう、とマニュアルにも書いてあったし。

 志望動機は……ううむ、多少脚色してもいいか。面接でうそを吐くなんて、今時みんなやっていることだ。大きく息を吸い、志望動機を口にする。

「愚かな人間どもを滅ぼし、魔族の千年王国を作るため、新生魔王軍への入団を希望する!」

「…………」

 静寂が訪れた。

 春のやわらかな日差しが大広間の窓から差し込み、外をツバメが飛んでいった。

 自己アピールが終えた俺は堂々と胸を張り、面接官──魔王と四天王──の反応を待っている。

 四天王どもはピクリとも動かない。誰も彼も、どうするべきか困惑しているようだった。

 彼らのあるじ、魔王エキドナ本人はどうだろうか。

 ……うむ、かなりの好感触を与えられたようだ。心強い人材が来てくれたことに感激したのか、エキドナは先程から顔を伏せ、一言も発さず、ふるふると肩を震わせている。

 一分近くが経過した頃、ようやくエキドナが立ち上がり、こちらに向けて手をかざした。

 そして、

「不採用に決まっとろうがボケェェ!」

 ────怒号と共に放たれた爆炎によって、視界が赤く染まった。

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