結末(1)

「……」

 俺とカイザーコングの間に、微妙な空気が流れる。

 ……もうね、何なんだろうね。あれだけ意気込んどいてまさかのミスだよ。死にたいね。

 取りあえず、このままの状態で襲われるのも嫌なので、痛む体に鞭打って俺は何とか起き上がる。

「ふ、ふふふ……なかなかやるじゃないか……」

「イヤ、自滅シタダケジャ……」

「いやあああああああっ!」

 穴があったら入りたいっ! 誤魔化そうと思ったけども、すごく的確なツッコミが飛んできたよ!

 アレだね。魔法は要練習だな。このままじゃ俺の体が持たん。

「……続ケテイイカ?」

「俺に安らぎをくれよ……」

 何なの? 俺は今自分で勝手に死にかけて、精神的にもかなり参ってるんですけど? それなのにまだやる気? このゴリラさん。

「……ジャア、行クヨ?」

 そう訊いてくるカイザーコングだが、今この状況で襲われたらひとたまりもない。体中痛いし、咄嗟にスキルを発動できるほど回復もしていない。

 でも、魔法も満足に使えないこの状況じゃ……俺、コイツを倒す術ってあるのか?

 ただ、目の前のカイザーコングは、とても律儀だ。わざわざ俺に攻撃していいか訊いてくるし。……少し同情されてる気がしないでもないのは気のせいだと思いたい。俺って運上がったよね?

 そんなことより、本気でこの状況を打破する策がないと……。

 スキルは通じないし、魔法もまともに使えない。回復薬を使用して体を回復させようにも、その間に攻撃されるだろう。律儀に攻撃していいか訊いてくるくらいだから、回復しても大丈夫そうな気もするが……。

 何か……何か俺に残された手は……!

 頭を必死に回転させ、この状況を切り抜ける方法を考えていたときだった。

「モウ十分待ッタ。行ク」

「え!?」

 もう少し待ってくれると思っていたが……カイザーコングが俺に向かってすさまじいスピードで迫ってきた。

 幸い、スキルを使っていないようなので、避けようと思えば避けられる。……全快時の俺なら。

 今は自分の放った一番強いだろう魔法のせいで、体中が痛く、思うように動けない。現に今も足がプルプルしてる。

「っ!」

 もう、すぐそこまでカイザーコングが迫ってきていた。俺に残された時間はない。

 どうすれば……!

 そう思ったとき、俺は、秘密兵器のことを思い出した。

「俺には……臭いがあるじゃないかっ!」

 あのクレバーモンキーを絶命させた実績を持つ、あの死の臭いが……!

 あ、でも、さっきの魔法のせいで、臭いが落ちたかもしれない……。

 しかし、そんなことは今の俺には問題ではない。

 なぜなら、称号『臭い奏者』があるからだ!

 この称号は、臭いを自由自在に操れるという、喜ぶべきなのか、嘆くべきなのかわからない効果を持っている。

「ふははははっ! カイザーコングよ!」

「ッ!……何?」

 カイザーコングは突撃を止め、立ち止まる。……ホントに律儀だね。

「もう貴様に勝ち目はない!」

「ナゼ?」

「俺には……秘密兵器があるからだ!」

「ナ、ナンダッテー!?」

 なぜお前がそれを知っている。いや、偶然だろう。

「お前は今から俺に近づいただけで、その命を落とすだろう……!」

「……一体、ドウイウコト?」

 カイザーコングは俺の言葉に困惑を隠せないようだ。それもそうだろう。近づいたら死ぬなんて、普通信じられないもんな。

 だが、これは体臭がとんでもない俺だからこその必殺技! 人間としての威厳を犠牲に手に入れた、最強の技なのだっ!

 俺は称号『臭い奏者』の効果で、今出せる最大量の臭いを噴出させた。

 この称号は、臭いを自由自在に操ることができるが、臭さは生み出すことができない。つまり、自分の持っている本来の臭いを強くしたり、弱くしたりできるというモノだ。

 ゆえに、今の俺の半径10センチ以内には、強烈な臭いが漂っていることだろう。

 ただし、臭いなので効果があるのは本当に僅かな距離しかない。

 そこで、俺は自分の服を扇ぐことで臭いが届く範囲を広げることにした。じゃないと、臭いが届く前に顔面に拳がめり込んでるだろう。

「さあ! かかってこい!」

 俺は服をバッサバッサ扇ぎながらそう言った。心なしか、カイザーコングがドン引きしてるようにも見えるんだけど。

「……」

 ほんの数秒何かを考えているかと思ったら、カイザーコングはその場からパッと消えた。

 恐らくスキル『瞬腕』を発動させたのだろう。

「……モウ終ワリ」

 そんな短い言葉が聞こえたと思ったときには、目の前にカイザーコングが立っており、そして拳は俺の眼前まで迫っていた。

「っ!」

 やっぱりダメだった!? 臭いじゃ勝てない!? てか届いてないのか!?

 馬鹿だなあ。臭いで倒せるわけないのにね。……クレバーモンキーは死んだけども。あ、あれは偶然だ!

 すべてを諦め、目の前に迫った拳を受け入れようとしたときだった。

「!」

 ピタッ。

 そんな擬音が聞こえてきそうなほど、あのとてつもない勢いの拳が、俺の顔面ギリギリのところで止まった。

 俺はその拳を凝視した。背中から冷や汗が溢れ出る。少しちびりそうだったのは内緒だ。

 俺は何度も瞬きをし、拳を見つめていた。なぜ急に殴るのをやめたのか? 俺はカイザーコングの表情をチラリと見た。

「ポー……」

「……」

 見るんじゃなかった。

 気色悪っ! だって、ガチムチの雌ゴリラが頬赤らめて惚けてるんだぜ!?

 というより、カイザーコングどうした!? 一体何が!?

 そんなことを思っていると、突然カイザーコングは真剣な表情……だと思うが、そんな顔で俺の両肩をがっしりと掴んだ。

 ……って、あまりの気色悪さに反応が遅れた?

 俺は、これから自分はどうなるのだろうという不安を抱きながら、目の前のカイザーコングの顔を見る。カイザーコングは、またもや気色悪い頬を赤く染めながら、口を開いた。

「……好キ」

「…………………………はい?」

 待て待て待て。ウェイウェイウェイ。一旦落ち着こうか、俺。

 え、今何て言った? 俺の気のせいじゃなかったら、『好き』って聞こえたんですけど……。

 その可能性だけは捨てたい俺が、恐々とした気持ちでいると、カイザーコングはさらなる追撃を喰らわせてきた。

「今スグ結婚」

「…………」

 ヤバい、どうしよう。俺の脳内処理能力の許容範囲を超えちゃってるよね。何言ってんだ、このクソゴリラ。

 混乱している俺をよそに、カイザーコングは俺の腕をひっ掴むと、そのまま引き摺り出した。

「強イ雄。フェロモン、スゴイ。超カッコイイ。巣ニ連レテ帰ル。子作リ」

「…………」

 俺はようやく状況を理解した。

 そして――――。

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 絶叫した。


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試し読みは以上です。


続きは好評発売中

『進化の実~知らないうちに勝ち組人生~1』

でお楽しみください!

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