9/18(土)発売!! 【朗報】俺の許嫁になった地味子、家では可愛いしかない。3

第3話 俺の許嫁になった地味子、友達慣れしてなすぎて大暴走

「そわそわ……そわそわ……」

 言葉でそわそわ感を表現する人、初めて見た。

 誰が見てもそわそわしてる結花の様子に、俺は思わず吹き出してしまう。


 リビングの壁に貼られた、無数のデコレーション用のシール。

 ダイニングテーブルには、結花お手製の料理の数々。

 そしてキッチンに隠してあるのは、ろうそくの立ててあるホールケーキ。


 そう。

 結花がそわそわしてるのは、これからイベントを開くから。

 そのイベントっていうのは――俺たちの婚約四か月記念パーティー。

 ……三か月のときもやったよね? 毎月やるつもりなのかな、結花……。

 だけど――そわそわしてるのは、俺に対してじゃないんだよな。

 そわそわの相手は、このパーティーに呼んでるゲスト。

 結花にとっておそらく、高校で初めてできた友達。

 ――――二原桃乃。

「桃ちゃん、もうすぐ来ちゃうよね……どうだろ? 準備足りてるかな?」

 夏休みの登校日。

 本当は友達っぽく振る舞いたかったのに、コミュ障の度が過ぎて、二原さんに驚きの塩対応をしてしまった結花は――凄まじく落ち込んだ。

 そして落ち込みに落ち込んだ末、思いついたのが……婚約四か月記念パーティーに招待するってアイディアだ。

「えーと……結花。真面目に一言、いい?」

「もちろん! 桃ちゃんに喜んでもらうためなら、どんな意見でも吸収するよっ!!」

 意気込みのレベルが半端じゃない。

 もうこれ、二原さんを祝う会みたいになってない?

「俺だったらの話だけどね……友達の婚約四か月祝いに呼ばれても、あんまり嬉しくないと思うんだよ」

 たとえばマサに、三次元の彼女がいたとする。事実とは異なるけど。

 そんなマサが、俺に対して「婚約四か月なんだけど……お前、一緒にパーティーしねぇか?」と言ってきたとしよう。

 そのとき、俺がどんな行動をするか。

 ……間違いなく、マサの頭をはたく。

 しかも、結構な勢いで。

 それくらい、友達と彼女がいちゃいちゃしてる現場に呼ばれるなんて、気まずいしかないんだよ。男同士だと、これ絶対。

「でも。桃ちゃんにRINEしたら、すっごいテンション上がってたよ? 『佐方の恥ずかしいところ、写メに撮りまくるし! めっちゃ楽しみ!!』って」

「テンションの上がりどころが、パーティーの主旨と違う……」

 うん。二原さんは、そういう人だったね。

 じゃあ、まぁいっか……。

 確かに、結花が学校でうまく立ち回るのを期待するより、家で二原さんと打ち解けるのを目指した方が、遥かにハードル低いし。

「……けっ。マジで、例のギャル呼ぶの?」

 俺と結花が話してるところに、すっと割り込んでくる那由。

 ジージャンのポケットに手を突っ込んで、あからさまに不愉快そうな顔をしてる。

「大丈夫なわけ、あのギャル? パーティーにかこつけて、結花ちゃんから兄さん奪い取るとか、しそうじゃね?」

「なんでだよ……この間、説明したろ? 二原さんは別に来夢と繋がってるわけじゃないし、ただの特撮好きなギャルなんだって」

 野々花来夢――俺が中学時代に玉砕した相手であり、黒歴史の象徴。

 那由は、やけに俺に絡みたがるギャルを怪しんで、来夢と関係あるんじゃないかとか疑ってたけど……夏祭りのくだりを伝えて、誤解は解いたはず。

「はぁ……いや、野々花来夢の手下じゃないのは分かったけど。だからって、安心したわけじゃないし。だって相手は、ギャルっしょ?」

「ギャルだから……なに?」

「ギャルは相手に彼女がいようと、関係なく食べる――肉食の獣だし。マジで」

 びっくりするほど偏見だった。

 いや、俺もギャルってだけで警戒してたから、人のことは言えないけど。

「だから、言ってんだろ? ギャル風な見た目だけど、中身はただの特撮ガチ勢なんだって。花より団子ならぬ、男より変身アイテムなんだよ、二原さんは」

「そうだよー、那由ちゃん! 桃ちゃんはそういう、いかがわしい子じゃないから……くれぐれも、変ないたずらしないようにね?」

「……分かったし。結花ちゃんが、そこまで言うなら」

 お前、相変わらず俺の意見は聞かないけど、結花に対しては素直だよな。

 妹と許嫁が仲良しなのは、良いことなんだけど……なんか釈然としない。


 ――――ピンポーン♪


「きゃー!! も、桃ちゃん来ちゃったよ……どうしよう、遊くん!?」

「いや、来るでしょ。結花が呼んだんだから……」

「……けっ」

 大慌ての結花を見かねてか、那由がとことこと廊下を歩いていく。

 そしてガチャッと、玄関のドアを開けて。

「やっほ、佐方と結……って、あれ? 誰?」

「そっちこそ誰だし。佐方? ああ。その人は昨日、チベットに引っ越したんで。じゃ、お引き取りくだ――」

「ぎゃあああああああ!? 那由ちゃんのばかぁぁぁぁぁ!!」

 慌てて駆け寄った結花は、那由の肩を掴んでぶんぶん前後に振りはじめる。

「もぉぉぉー! いたずらだめって言ったのに、いたずらだめって言ったのにぃー!!」

「ご、ごめん結花ちゃん……謝るから、そんなに揺すんな……うぇ、気持ち悪……」

「――ぷっ! あははははっ!! マジウケんね、佐方んちって!」

 そんな二人を後ろから眺める俺を見て、二原さんはけらけら笑う。

 そして、腰をかがめて、那由の顔を覗き込むと。

「初めまして。あなたが本物の那由ちゃん……なわけね?」

「那由かどうかは、あたしが名乗るまで分からない……どうも、シュレディンガーの那由ですが、何か?」

 どこまでもひねくれた態度を取る、どうしようもない那由の背中を。

 俺と結花は、同時にぺしっとはたいたのだった。


          ◆


「おー、めっちゃ飾り付けしてんじゃーん! 気合い入ってんねぇー!!」

 リビングに入ると同時に、二原さんは感心したように声を上げた。

 二原さんの視線の先にあるのは、デコレーション用のシールに彩られた壁。

 星やハートが散りばめられてるだけじゃなく、『祝 ゆうくん 4か月!』なんて文字シールまで貼られてて……普通に恥ずかしいんだけど、これ。

「いやぁ、佐方。愛されてんねぇー。さすがの桃乃様も、ニヤニヤしちゃうわー。マジにやけるわー」

「からかってるだけでしょ、二原さんは……」

「そんなことないってぇ。ほら、仮面ランナーボイスも、言われてたじゃん? 戦うことこそが、愛。そして愛こそ……」


「「――『地球の声』なんだ!!」」


 結花と二原さんの声が、はもった。

 セリフの意味は、これっぽっちも分かんないけど。

「……あははっ! 結ちゃん、『仮面ランナーボイス』観てくれたんだ? うわぁ、めっちゃ嬉しいんですけど!!」

「『花見軍団マンカイジャー』も観たよ! 桃ちゃんに勧められて観たら、どっちもすーっごく、面白かった!!」

「んじゃ、今度は昔の名作とかどーよ? うちが一番好きな特撮作品のブルーレイボックス、いつでも結ちゃんに貸すかんね?」

「えー、でも借りてばっかじゃ、桃ちゃんに悪いしー」

 お互い『結ちゃん』『桃ちゃん』呼びで、きゃっきゃしてる結花と二原さん。

 よかったね、結花。仲良くガールズトークのできる相手ができて……内容は特撮ネタだけど。

 なんて。

 ほのぼの見守っていると――結花がハッとした顔になる。

 そして、バツが悪そうに肩をすぼめて、小さく頭を下げた。

「あ、えっとね、桃ちゃん……登校日のとき、素っ気ない態度取っちゃって、ごめんね。本当は桃ちゃんと会えるの、楽しみで仕方なかったんだけど……学校だとどう接したらいいか、分かんなくなっちゃったんだ……」

 消え入りそうな小さな声で、結花が素直な気持ちを伝えた。

 それに対して、二原さんは。

「…………きゃ――!! 結ちゃんってば、めちゃカワすぎなんだけど――!!」

 黄色い声を上げたかと思うと。

 もじもじしてる結花のことを、ぎゅーって抱き締めた。

 おろしてる結花の髪が、ふわっと揺れる。

 そして二原さんは、結花のほっぺたに、自分のほっぺたをくっつけて。

「気にしなくていいって。そんなんで、うちが結ちゃんを……嫌うわけないっしょ」

「……うん。ありがと、桃ちゃん」

「……けっ。けっ。けけけの、けっ!」

 何その、ちゃんちゃんこ妖怪アニメのOPみたいなテンポ。

 どっかのモンスターみたいな舌打ちをした那由は、凄まじい不機嫌オーラを纏いながら、ダイニングテーブルについた。

 そして――バクバクッと、結花の用意した肉料理にがっつきはじめる。

「あー! 那由ちゃん、待ってよ!! みんなでいただきますと、おめでとうしてから、食べ――」

「けっ」

 言語を忘れたかのごとく、舌打ちだけしかしない那由。

 見かねた俺は、那由の首根っこを掴んで、ダイニングテーブルから引き離す。

「ちょっ……やめろし、兄さん! いくら欲求不満だからって、妹を使って何しようとして――ご飯じゃなくて、あたしを食べるとか、マジ野獣なんだけど!!」

「言い掛かりだな!? お前が大暴れするから、こうなってんだろ!」

 ぶんっと那由をソファに放ると、俺は大きくため息を吐いた。

「ったく。分かりやすいな、お前は……結花と二原さんが仲良すぎて、嫉妬したのか」

「はぁ!? 妄想はソシャゲの中だけにしろし! あたしはべ、別に、嫉妬とかしてないから!! 誰と仲良くしても、それは結花ちゃんの……自由だし」

 話してるうちに、段々と声のトーンが落ちていく那由。

 本当に分かりやすいな、お前。

 そうして、ソファの上にあぐらを掻いて、ツンとそっぽを向いてる那由を見て。

「那由ちゃん……可愛いなぁ、もぉ!」

 結花はほっぺたが落ちそうなほどニヤニヤしながら、ギューッと那由を抱き締めた。

 恥ずかしいのか、なんかジタバタもがく那由。

 だけど、結花に抱きすくめられてるうちに――段々とおとなしくなっていく。

「もー。心配しなくても、私は那由ちゃんの『お義姉ちゃん』だよー?」

「離せし! 離せし!!」

「あははっ。だいじょーぶ。うち、人の大事なもん取るとか、好きじゃないかんさ」

 子犬みたいになった那由の頭を、二原さんはぽんぽんと撫でる。

 そして、しゃがみ込んで、にこっと笑い掛けると。

「那由ちゃん、結ちゃんが大好きな感じなんだね? 兄の許嫁なんて……血の繋がりもない、他人だってのに。本当の『姉』みたいに、懐いてんだ?」

 一瞬「うっさい」なんて暴言を吐きかけて……那由はしゅんと、頭を垂れた。

 そして、小さな声で呟きはじめる。

「……結花ちゃんって、優しいじゃん? だから、この甲斐性なしで、ろくでなしな兄さんを……マジで笑顔にしてくれるって。信じられるから。だから、あたしは……」

「那由……」

 鼻の奥がツンとするのを感じて、俺は慌てて鼻先を拭った。

 那由……そんな風に、俺と結花のことを考えてくれてたんだな。

 そう思うと、ただ生意気で悪さばかりすると思ってた妹のことも。

 ちょっとだけ、可愛く見えて――――。


「分かる、それ! 血の繋がりだけが、きょうだいの絆じゃないわけさ……そう、コスモミラクル兄弟のように!!」


 絶妙なタイミングで、二原さんが意味不明なことを口走った。

「……はい? コスモミラクル兄弟?」

「コスモミラクル兄弟は、宇宙守備団所属のコスモミラクルマンたちの中のエリートの総称で、いわゆる義兄弟なんだけど……その絆は、スパークするプラズマのごとし! 光る絆で、どんなピンチだって奇跡に変える――最高で最強の、兄弟なんだよ!!」

「何言ってんの、このギャル?」

 オタク特有の早口で特撮の設定を捲し立てる二原さんを、怪訝な顔で見る那由。

 かと思ったら……那由はふっと、笑い声を漏らした。

「……ま。ギャル系の見た目だけど、あんたの中身がクラマサと変わんないのは分かったし。反社会的なことしないってのも……理解したわ。マジで」

「しないっつーの。あんたも大概な子だね、那由っち?」

 そう言ってけらけら笑う二原さん。

 よかった……なんかよく分かんないけど、打ち解けたみたいだな。那由と二原さん。

「……ゆーくんっ」

 そんなことを思っていると、耳元で甘い声を囁かれて、全身がぞわぞわっとなる。

 振り向くと、はにかむように笑いながら、結花が自身の口元に手を当てた。

 そして結花は、こそこそっと呟く。

「……四か月、ありがとうでした。これからも、よろしくです……大好きな、遊くんっ」

 不覚にも、その笑顔に……俺はつい、ドキッとしてしまう。

 そんなとき――――。

「なぁんか、佐方と結ちゃん、良いムードじゃーん。これはうちら、お邪魔虫系?」

「ん。じゃあ兄さん、そのまま子作りしろし。あたしらは小一時間、外出てるわ」

「出なくていいから! っていうか、なんでそこで意気投合してんだよ、二人は!?」


 そんなこんなはあったけど。

 俺たちの婚約四か月記念のパーティーは、かしましく盛り上がったのだった。

 ……なんか、パーティーの主旨とズレてる気がしないでもないけど。

 まぁ――みんなが楽しく過ごせたから、良しとしよう。


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試し読みは以上です。


続きは2021年9月18日(土)発売

『【朗報】俺の許嫁になった地味子、家では可愛いしかない。3』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。


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